東京高等裁判所 平成2年(行ケ)132号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の当否を検討する。
1 成立に争いない甲第四号証(本願考案の実用新案登録出願公告公報。以下「本願公報」という。)によれば、本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は左記のとおりであると認められる(別紙図面一参照)。
(一) 技術的課題(目的)
本願考案は、パネル式水槽の側壁縁端つき合せ部の補強構造に関する(第一欄第一七行ないし第二三行)。
多数の箱形パネルによつて大容量の水槽を組み立てる場合、側壁が水圧によつて撓み水槽全体が膨らみを生ずるので、何らかの補強を必要とする(第二欄第六行ないし第九行)。このような補強構造として、昭和四九年実用新案登録出願公開第五九一〇六号あるいは昭和五一年実用新案登録出願公告第二三〇五九号が公にされているが、いずれも満足し得るものではない(第二欄第一〇行ないし第一九行)。
本願考案の課題は、施工が簡単でありながら、側壁縁端つき合せ部を確実に補強でき、水漏れのおそれをなくした補強構造を創案することに存する(第二欄第二一行ないし第二五行)。
(二) 構成
右課題を達成するため、本願考案はその要旨とする構成を採用したものである(第一欄第二行ないし第一四行)。
別紙図面一はその一実施例を示すものであつて(第三欄第一五行)、10は箱形パネル、11は箱形パネル10の四囲に設けられたフランジ、12はフランジ11、11を連結するボルト・ナツト等の連結具である(第三欄第一九行ないし第二四行)。側壁の縦の縁端を成すフランジ11a、11aは互いに直角を保持するので、その間に山形連結材13を当接して、つき合せ部を固定補強する。また、水平に位置するフランジ11bは、上面に補強アングル材14を当接し、連結具によつて共締する(第三欄第二六行ないし第三四行)。
(三) 作用効果
本願考案によれば、つき合せ部が開口したり、つき合せ部を形成する箱形パネルが限度以上に撓むことがないので、水漏れを完全に防止することができ、地震時にもつき合せ部が破損することはない。なお、連結材及びアングル材は、共に水槽の外側から取り付けるものであるから、施工が容易である(第四欄第二七行ないし第三五行)。
2 一方、成立に争いない甲第二号証(実用新案登録出願公告公報。別紙図面二参照)によれば、引用例1記載の考案は、「組立式水槽」に関するものであるが、同引用例に審決認定の技術的事項が記載されており、本願考案と引用例記載の考案が審決認定の一点においてのみ相違することは、原告も認めて争わないところである。
3 審決は、引用例2には「つき合せ部を構成する箱型パネルの、水平に位置して互いに接合されるフランジに、補強アングル材を当接して両者を連結具によつて連結した、パネル式水槽側縁端つき合せ部の補強構造」が記載されていることを前提として、その認定した相違点の判断をしているところ、原告は、「引用例2記載のアングル9は、長尺体fを固定するために「特定の接続用縁部」にのみ当接・固定される部材であつて、補強アングル材ではない」と主張する。
そこで検討するに、成立に争いない甲第三号証(実用新案登録願書添付の明細書。別紙図面三参照)によれば、引用例2記載の考案は、「組立式タンク」に関するものであつて(第二頁第五行)、直角四辺形の四辺に接続用縁部を設け全体が浅い箱状を呈する単位体(第二頁第一一行ないし第一五行)を組み合わせて大容量のタンクを作ると、対向する側壁間の距離の維持が困難となるのみならず、タンクが液圧によつて撓みやすいので、対向する側壁の間に支柱をさし渡す必要があるが、支柱を直接ボルトで締めるとプラスチツク製の単位体が変形するおそれがある(第三頁第一二行ないし第四頁第九行)との、従来技術の欠点を解決するために創案されたものと認められる。そして、同号証によれば、引用例2記載の考案は、「一つの単位体に孔をあけ、この孔に長尺体を貫通させ、この長尺体の他端を同様にして対向する側壁の単位体に貫通させて両側壁間にさしわたし、長尺体の端をタンク外に突出させ、その突出端と単位体の接続用端部との間にアングルを架橋して固定し、長尺体によつて対向する側壁間の距離を保持」することを、その技術的思想の核心とするものと認められる(第一頁第一三行ないし第二頁第二行)。
そうすると、別紙図面三の第2図に示されているアングル9は、単位体aと単位体bの「水平に位置して互いに接合される接続用端部3」に当接され、ボルト・ナツト11によつて連結されているが、その企図するところが(本願考案のように、「水平に位置して互いに接合されるフランジ」の接合を補強することに存するのではなく)、アングル10及びボルト12と協働して、専ら長尺体fを堅固に固定することに尽きることは明らかである。それゆえ、引用例2記載の考案においては、アングル9を、長尺体fの固定にかかわりのない接続用端部(すなわち、「特定の接続用端部」以外の接続用端部)にまで当接し連結する必然性は、全く存しないことになる。
以上のとおりであるから、本願考案の補強アングル材14と、引用例2記載のアングル9は、技術的意義を異にするものであつて、引用例2記載のアングル9を、審決のように「補強アングル材」と表現するのは相当でないというべきである。もとより、引用例2記載のアングル9が、結果として単位体aと単位体bの「水平に位置して互いに接合される接続用端部3」の接合を補強する機能をも果たしていることは否定し得ないが、そうであるからといつて、「およそ補強を要する「水平に位置して互いに接合される接続用端部」にはアングル9を当接し固定すべきである」との点は、引用例2記載の技術的思想には含まれておらず、示唆すらなされていないといわざるを得ない。
この点について、被告は、引用例2記載の考案について要旨変更に当たらずとして許容された補正によつて実用新案登録出願公告公報に掲載されることとなつた第3図(別紙図面四参照)を援用する。しかしながら、第3図によつても、引用例2のアングル9は長尺体fを堅固に固定するための部材であると認める他なく、したがつて、長尺体fの固定にかかわりのない接続用端部にまでアングル9を当接し連結するとの技術的思想を引用例2から読み取ることは、不可能であるといわざるを得ない(なお、前掲乙第一号証によれば、引用例2記載の考案の実用新案登録出願公告公報に掲載されている考案の詳細な説明においては、アングル9に関して格別の補正はなされていないことが認められる。)それゆえ、「引用例2には、およそ補強を要する「水平に位置して互いに接合される接続用端部」にはアングル9を当接し固定すべきであるとの技術的思想が示唆されている」旨の被告の主張は、採用することができない。
4 以上のとおりであるから、引用例2に「水平に位置して互いに接合されるフランジを補強する、補強アングル材」が記載されていると認定し、これを前提としてなされた審決の相違点の判断は誤りであり、この誤りが本願考案の進歩性を否定した審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は違法なものとして取消しを免れない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容することとする。
〔編注1〕本件考案の要旨は左のとおりである。
直角四辺形板状体の四周に直角にフランジを形成した箱形パネルを、少なくとも上下に複数段として、フランジを外側に向けて互いに接合することによつて組み立てられたパネル式水槽の側壁であつて、
当該側壁の縦の縁端が各々直角に配列された縁端つき合せ部の補強構造において、前記つき合せ部を構成する箱形パネルのフランジに、山形連結材を当接して、両者を連結具によつて連結し、
少なくとも、前記つき合せ部を構成する箱形パネルの、水平に位置して互いに接合されるフランジに、補強アングル材を当接して両者を連結具によつて連結したことを特徴とする、パネル式水槽側壁縁端つき合せ部の補強構造(別紙図面一参照)
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙図面一
<省略>
別紙図面三
<省略>
(他は省略)